【第16話】只今、妊娠16週3日(妊娠5ヶ月)
延期になっていた絨毛検査の結果の日が、いよいよやってきた。
先に受けた新型出生前診断(NIPT)は、陰性(染色体に異常がない)の判断制度は99.9%以上と高いのだが、陽性(染色体に異常がある)の制度判断はおよそ95%と低くなっている。
そのため、NIPTで陽性と出た場合、絨毛検査、もしくは羊水検査を受けて、その検査が正しいかどうかの確定を行うこととなる。NIPTは母体の血液から調べるが、絨毛検査や羊水検査は子宮内の細胞を採取するので確実な検査結果が得られるという訳だ。
僕たち夫婦は、95%ではない残りの「5%」に望みをかけていた。
「どうか、間違っていますように。お腹の赤ちゃんが18トリソミーではありませんように」
そう願いながら、僕らは検査結果を聞きに、昭和大学病院へと向かったのだ。
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絨毛検査の結果も、NIPTと同様「18トリソミー」
言葉数少なく、僕たちは待合室で呼ばれるのを待った。
そしていよいよ診察室へ。
着席して早々に告げられた。
「絨毛検査の結果が届きました。やはり18番の染色体が3本になっていて、18トリソミーだと確定しました」
先生は、最初からお世話になっている遺伝カウンセラーさんだ。
染色体の一覧がプリントアウトされた用紙が広げられた。確かにそこにある18番の染色体は、他とは違って3本ある。他は2本ずつ対に並んでいるのだが、18番だけが3本だ。
ちなみに、18トリソミーの型は「標準型」らしい。僕たちは事前にネットで調べていたのだが、18トリソミーにも標準型とそうでない型がある。
「それと、お子さんは女の子です」
遺伝子を調べることで、性別もわかる。
次に妊娠しても18トリソミーである可能性はどれくらい?
妻は「産みたい気持ち」を抱えながらも、どうしたらいいのかを迷っている。
その上で妻は、「次に妊娠したときに、また18トリソミーの可能性はどれくらいあるのですか?」と先生に質問した。
これについては、当然明確な答えはわからない。
「2回続けて18トリソミーの方はいる。ただし多くはない」「次の妊娠時は今より高齢になるので、染色体異常が起きる確率は上がる」といったことを教えてくださった。
僕たちは、18トリソミーが確定した事実を受け止めつつ、他にも気になることを色々と質問した。お腹の赤ちゃんの寿命のこと、中絶のこと、死産のこと、など。
寿命のことについては、このあと小児科の先生からお話があるとのことで、ここでは中絶のことと死産のことを聞いた。
中絶を決意した場合
僕たちは、中絶手術は日帰りだと思っていました。医師が器具を使って胎児を取り出すのだと。
しかし、その想像は間違っており、僕たちはさらにショックを受けることとなる。
なぜなら、週数が進んでからの中絶は、出産と同じ方法での分娩だからだ。ただし、正産期(臨月)を迎えての出産ではないので、自然に陣痛が起きることはない。陣痛促進剤を投与し、強制的に陣痛を起こし、出産するのだそうだ。
しかも、赤ちゃんが小さいので、子宮口はしっかりと閉じている。そのため、通常の出産より時間が掛かるかも知れない、とのこと。
僕たちは戦慄した。
通常と同じ出産スタイルで、しかも無理矢理陣痛を起こすので時間もかかるし、負担も大きくかかる。眠っている間に終わったり、麻酔を掛けている間に終わったりする訳ではないのだ。
そして入院は、数日から1週間程度とのこと。期間も、日帰りとはほど遠かった。
妊娠中、お腹のなかで亡くなって死産になる場合
18トリソミーは、お腹のなかで亡くなってしまう場合も多いそうだ。
その場合、どのような処置になるのだろうか。
実は、先の中絶と同じ方法ということだ。陣痛促進剤を使って、亡くなった胎児を出産する。
辛い……。
一番辛いのは妻なのだが、次々と辛い現実が目の前にやってきた。
ちなみに、担当してくださっている遺伝カウンセラーさんはすごく優しい先生で、言葉を選んで少しでも追い込まないように配慮してくだました。
18トリソミーはどんな赤ちゃん? 寿命や治療について、小児科の先生に相談
遺伝カウンセラーさんとの話に続いて、小児科の先生との話が行われた。
小児科の先生は、実際に18トリソミーのお子さんの治療にもあたっており、18トリソミーとはどんな病気なのか? どんな治療を行うのか? どんな生活になるのか? などを聞くことができる。
妻はすすり泣きながら、「つい先日まで、お腹の赤ちゃんが元気に動いていて……と、そんな感じだったので」と口を開くと、先生は優しく18トリソミーについて色々と教えてくださった。
18トリソミーの寿命、1歳まで生きられるのは3割くらい
無事出産までたどり着けたとしても、18トリソミーの赤ちゃんは長くは生きられないと言われてる。僕たちはネットで調べて聞きかじった程度の知識しかないのだが、そのあたりを詳しく聞いた。
確かにほとんどの場合、長くは生きられないそうだ。18トリソミーで1歳まで生きられるのは、3割くらいとのこと。なかには、幼稚園に入園してダンスをするまでの18トリソミーの子どもがいたそうだが、そこまでいけるのは凄く少ない。
どれくらい生きられるかは、出産時の体重にもよる。小さい子よりも、大きい子の方が有利。
食道閉鎖症で口からミルクが飲めない。胃に穴を開けチューブで栄養を届ける
18トリソミーでよくあるのは、喉にある食道のトラブル。健康な人は、空気の通り道と飲食物の通り道が分かれているが、それがつながっているそうだ。
先天性食道閉鎖症という病名で、喉は繊細な場所なので産後すぐに手術をするのは難しい。そのため、胃に小さな穴を開け、そこからミルクなどの栄養を入れ、身体が大きくなるのを待ってから手術を検討するとのこと。
食道閉鎖症でなくとも、口からミルクが飲める子は稀。その場合は鼻に管を通して、そこからミルクを入れる。
心臓に病気がある場合もある
また、18トリソミーは心臓に病気があることも多いそうだ。
心臓の治療は大手術となる。そのため、そこまでの治療を望まない親御さんもいるとのこと。その場合、その子に与えられた時間が短くなることがある。
夫婦共働き、18トリソミーの子どもを保育園に預けられる?
もし、18トリソミーであっても、幸い比較的元気であった場合、どのような生活が待っているのか。
18トリソミーは低体重で生まれることが多いので、体重が増えてから、心臓や消化器官に問題が無さそうであれば退院し、自宅に帰ることができる。成長はゆっくりで、身体の動かし方が上達するのに時間がかかる。
そんな18トリソミーの子どもを育てながら、夫婦共働きを続けることができるのだろうか?
これは厳しい状況ではあるが、保育園によってはチューブでミルクを与える必要のある障害を持った子どもを受け入れてくれる保育所があるそうだ。数は少ないが。
ただ、保育園では感染症が広がりやすく、健康な子であればただの風邪で終わることであっても、18トリソミーの子は肺炎や気管支炎になるなど重症化することがあるとのこと。症状によっては入院しないといけなくなる。
夫婦共働きを続けながらの育児が完全に不可能という訳ではないが、不測の事態が起きやすいので、これまで通りとは当然行かなくなりそうだ。
産む方がいいのか、中絶するのか
これについては、夫婦でよく話し合う他ない。
小児科の先生からも「簡単な決断ではないから、ふたりでよく話し合ってほしい」とアドバイスを頂いた。そして、考える際の指標として、先生は何冊かの18トリソミーの専門書・関連本を貸してくださいました。
遺伝カウンセラーさんも、小児科の先生も、本当に優しい。
事実は辛いけど、周りには心優しい人がいて救われる。
人工中絶が可能なのは妊娠22週未満(21週6日)、決断の日まであと少し
人工中絶手術が可能なのは、妊娠22週未満(21週6日まで)と法律「母体保護法」で決まっている。
妻は今、妊娠16週3日。
残り4週間だ。
しかし、中絶を決意しても、すぐに処置できるとは限らない。中絶する場合は、他の産婦人科を紹介頂けるとのことだが、一般の妊婦さんが大多数なので、そんな彼女たちと同室だと辛い想いをしてしまう。だから個室を確保しないといけない。
そのため余裕を持って早めに分娩(人工中絶)の予約手続きをしないといけないのだ。
そこで僕たちは、決断する日を8日後に決めた。
今日から8日間、夫婦で18トリソミーについて勉強し、しっかりと話し合いたい。
「ありがとうございました」
ふたりで頭を下げて、診察室を後にした。
今回の医療費「遺伝カウンセラーとの遺伝相談」
医療費(診察費) 3,000円
保険適応外・自己負担10割
- 遺伝相談(簡易:結果再診)