【第12話】只今、妊娠13週(妊娠4ヶ月目)
プライバシーの問題があるので詳しくは説明はしないが、ダウン症の幼い子供とそのママと数日間一緒に過ごす機会があった。ダウン症は、僕たちが宣告された18トリソミーとおなじく染色体異常によって発症する先天性疾患だ(生まれながらの病気)。21番目の遺伝子が3本あることによってダウン症は起きる。
本当に偶然だったのだが、僕たちはこのタイミングでダウン症の子供とその母親と過ごせるという機会を得たのだ。
ダウン症は、新生児の頃は健康な赤ちゃんとほとんど変わらない。だけど、心の成長がゆっくりだという特徴があるようだ。なかなか言葉が話せなかったり、落ち着きがなかったりなど。だから、ダウン症の子供を持つ親は、人一倍子育てに苦労をするし、いろいろと悩むことが多い。
でも、おっとりしているからか、よく笑顔を見せてくれる。可愛い子供であることには変わりなかった。一緒に過ごしている期間、僕は何度もギュッと抱きしめたり、遊んだり、ごはんを一緒に食べたりして、可愛さをたくさん感じることができた。
ママは、これまでの生活を一転させ、夫婦で子育てに注力しているとのことだった。綺麗だけでは済まされないのだろうが、立派な夫婦だなと素直に思った。
さて、この数日間の経験は、僕たち夫婦に刺激を与ることとなる。
検査で18トリソミーと診断され、僕は思考停止状態になっていたようだ。もし異常がわかれば中絶をしようと決意はしていたが、いざ直面すると罪悪感が芽生え、考えれば考えるほど、その罪悪感が大きくなってきたからだ。
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NIPTで判断できる、13、18、21トリソミーの特徴
新型出生前診断(NIPT)では、ダウン症を含む3つの染色体異常を調べることができる。
- 13トリソミー(パトウ症候群)
- 18トリソミー(エドワーズ症候群)
- 21トリソミー(ダウン症候群)
染色体に異常があると、そもそも流産したり死産したりする場合も多い。仮に無事生まれることができたとしても、13トリソミー(パトウ症候群)の場合、1年以内に80%は亡くなると言われており、18トリソミー(エドワーズ症候群)は2ヶ月までには半数が亡くなり、1年生存率は10%程度だと言われている。
また寿命が短い原因として、内臓や外観に奇形があるということもある。13トリソミー(パトウ症候群)をWikipediaで見てみると、単眼症という顔に一つしか目が無い赤ちゃんの写真が掲載されていてショックを受けた。おなじ染色体異常といっても、それぞれに特徴があり、13番と18番の染色体異常は特に重症度が高いようだ。
ちなみに21番目の染色体異常であるダウン症候群は、症状の軽度・重度の違いもあるが、平均寿命は50歳前後という統計がある。昔はもっと短かったが、医療の進歩で伸びてきているようだ。
僕たち夫婦はまだまだ勉強不足で、病院で聞いた情報と、ネットで検索した玉石混淆な情報しか持っていなかった。とにかくもっとしっかりと勉強する必要がある。
心境の変化。妻から「産みたいという気持ちがある」と
新型出生前診断(NIPT)を受けたのは、障害者を育てる自信が僕たちになかったからだ。夫婦共働きでギリギリの生活費のなか、一人息子を育てている。さらに、お互いの実家からも遠く離れているので、家事や育児はすべて僕たちでやるしかない。また、夫婦ともに40代と高齢なので、将来にわたって子供を面倒見続けることが難しいということもある。
逃げている、避けている、そんな風にも思えるが、家族全員が疲弊してボロボロになってしまう姿を想像してしまい、自立できない可能性が高い先天性疾患を持っていることがわかった場合は、赤ちゃんは諦めようと決めていた。
しかし、ここ数日間を経て、僕たちの考えが少し変わってきている。僕は罪悪感が芽生え、中絶への口火が切れないとためらうようになった。しかし妻の心は、僕以上に変化が起きていた。
「私、赤ちゃんを産みたい」と。